廣井研ゼミ
2013年度廣井研究室最終ゼミより
廣井研最終ゼミから,学部を卒業した牧野文香さんとの議論を紹介します(注:廣井が名古屋大学在籍中のゼミ生です).
■廣井 卒論お疲れさまでした.学部卒業なので1年だけだったけど.まずは卒論の感想どうですか.
■牧野 大変でした.テーマを決めて秋くらいから名古屋市16区のヒアリング調査をはじめたのですが,はじめてだったので.それと終盤は避難所収容マップの作業量が膨大でした.
■小川(幸田町消防) 卒論でどのようなことを学ぶことができましたか?
■牧野 単純な答えになりますが,自分の調べたいことを調べるというプロセスです.とにかくテーマを探すのが大変で,作業も多かったですけど.他に誰もアプローチしていない研究をしろと先生に言われていたので.結果的に好奇心を持って研究をすすめることができました.後半からは成果を自治体の人がどのように使ってくれるのか考えながら結果を出し続けました.
■廣井 去年の4月に思い描いていた卒論とはだいぶ異なるんでしょうね?
■牧野 もともと卒論のイメージをあまり持ってはいなかったんですよね(笑) だからこういうものだったんだ,というのが今の正直な感想です.研究室に入る前はそういう人も多いのではないかと思います.
■廣井 はじめは災害心理をやりたかったんですよね.何で避難所の研究になったのかな?
■牧野 夏くらいまではひたすら関連書籍を読まさせられていたのですが,その中の災害ユートピアに関する書籍が関心を引きました.この中で避難所に集まった被災者が食べ物を分け合ったりとか,災害時は平時には見られない特殊な共同体が生まれることがあって,その心理について詳しく書いてあったので.その時に先生に避難所関連研究を紹介してもらったので,そんな研究もあるんだと思ったのがきっかけです.
■廣井 水田先生のご研究ですね.私がどこかの学会大会で司会をしたときにたまたまご発表されてたので,牧野さんに紹介したような記憶があります.東日本大震災の避難所を網羅的に調査するような研究でもよいなと思っていたのですが,結局はGIS使ったりボロノイ図とかクラスター分析とか都市解析チックな研究になった訳ですが.
■牧野 迷ったんですが,次の災害についての研究をしようと考えました.GISは12月末にはじめて「使え」と先生に言われて,間に合うのかと思いましたが,間に合いましたね.
■廣井 3週間くらいで使いこなせるようになりましたね.GISというと身構える学生がいるんですけど,エクセルやソロバンと同じです.少なくとも我々ユーザーの立場では.そのものの研究をする人は別だけどね.初期はずっと書籍を読み込む毎日でしたが.
■牧野 今から考えると,災害研究にはいろんな分野の専門家がいるんですね.全体像を理解するために重要なプロセスだったと思います.東日本大震災に関する本は4年になる前にいろいろ読みましたけど,写真とか被害に関する本が多くて,直接的に研究テーマ探しの参考にはなった訳ではなかったですね.なので廣井研は建築構造グループの研究室ですが,4年の4月からは心理の本や社会学の本,都市計画の本などいろいろ読みました.
■廣井 社会は防災研究に対して唯一解を求めがちだけど,答えがないことも少なくないんですよね.それが分かるだけでもずいぶん違うんじゃないかな.みんな自分の研究が一番大事って思ってるから(笑),いろんな分野の書籍を並列に読むと主張が強いのもあったりして,かえって混乱するかもしれない.でもそれが防災研究の立脚点かもしれませんね.それから,牧野さんは学部で卒業しちゃうから,いろいろな経験をしてもらおうと思って,被災地にも行って,ヒアリングもして,Rのプログラム書いてきちんと分析もして.マップ作りもしたし.アンケートは出来なかったけど,まあ1年間では十分に経験を積めたかなと思いますね.さて卒業研究でどのようなことが分かりましたか.
■牧野 マニュアルがあるなしに,避難所運営って計画制度の面からみると非常に画一的なんですね.少なくともこの地域では.例えば名古屋市はひとつの避難所運営マニュアルだけで,地域特性があまり反映されていない.場合によっては地域の人たちが地域特性に応じた運営をしようとしているけど,主観的な根拠に基づいたものが多かったりとか..最初は避難所運営を研究テーマにしたいと思ったのですが,その前に避難所特性に応じた運営方針の違いや広域調整の視点が欠けているように思えました.そこで,だんだん避難所の特徴を可視化するような研究にシフトしていきました.HUGなんかも先生に購入してもらいましたけど.
■廣井 水害,津波,地震と,避難所に求められる役割や対応は全然違うけど,それが整理されていなかったんだよね.「地域特性に応じた」って一言で言うのは簡単なんだけど.ヒアリングを何度も何度も繰り返して,被災地でも聞き取りして,そこに気付いたと.結果としては,インフラの復旧率や,被害の有無,災害ごとの避難人口,あるいは避難者の個人属性ね,高齢とか子供とか.そんなものをデータ化して,最短距離でマッピングして,クラスター分析で類型化したら綺麗に傾向が出ましたね.同じ区の中でもずいぶん違いますよね.
■牧野 名古屋市は特に避難者が多く,収容避難者の移送などは現実に考えられると思いますので,その時に必要となる基礎データを出せたのは良かったです.
■廣井 研究でもこの1年間でもいいんだけど,やり残したことはありますか.
■牧野 卒業研究では避難所の選択は簡単に最短距離で移動することにしたんですが,ネットワークボロノイや離散的な選択による意思決定を内生化してもよかったかもしれません.どこの避難所に行くのも自由なようですし,例えば地震被害は南海トラフ巨大地震の揺れを入力地震動にとって,半壊以上の世帯が避難するとしたのですが,一部損壊でも指定避難所に行くかもしれませんし,疎開するかもしれませんし.あとは地震・津波・水害の複合災害を想定した避難所圏域の最適割り当て問題です.
■廣井 それについてはハフモデルとかエントロピー最大化原理による施設配置問題とか,解析分野で膨大な研究蓄積がなされているから,まずはいくつか書籍を読み込んでください(笑) その他にも避難所が集約される過程を動的に最適化したり,指定避難所の階層的な検討もできるんじゃない.災害の種類や被災状況によっては避難所に行くのでなく世帯分離したり実家に帰ったりね.そんなことになると被災地から人口流出して困るから,そういったシナリオを阻止する戦略とか.長期的視点からのDCPのような検討に研究が発展するのも興味深い.その辺は今後,卒業研究を審査付きの論文にするときに考えましょう.1年間お疲れさまでした.
2014年3月20日(木)名古屋大学減災館4Fセミナールームにて
卒業おめでとうございます.
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