帰宅困難者対策

帰宅困難者対策に関連する研究をすすめています.近年,「帰宅困難者対策は自宅に帰れないというだけの人のための対策で,防災対策とは言えないのではないか」という意見が散見されますが,それはあくまで東日本大震災時の東京など,都市に大きな被害がなかった状況下での解釈に過ぎません.首都直下地震や南海トラフ巨大地震など,大都市で巨大災害が発生した場合は,大量の人が地震後一斉に徒歩や車で移動することで,明石花火大会歩道橋事故のような過密空間が発生したり,消防車や救急車の活動が遅くなってしまうなどして,人の命が間接的に失われてしまう可能性があります.事実,1923年の関東大震災時には「橋の上に衝突して押潰され踏み倒され,橋より落ちて大河に沈むもあり,欄干に押し付けられて絶息するあり,宛然白兵戦のそれに似て,物凄しとも恐ろしとも更に形容の言葉もなく,此処に命を損すもの又幾許なるかを知らない」と報告されているなど(関東震災写真帖大正12年),当事の人口規模ですら,群集の事故で亡くなった人が少なくないようです.もちろん帰宅困難者対策は,初期消火や耐震対策・避難対策のような防災政策上の最優先課題というわけではありませんが,大都市部で災害直後に渋滞や過密空間を発生させないことで,群集なだれや将棋倒しをふせぎ,迅速に火災対応や傷病者対応を行うために,「なるべく帰らない」という対策は,それなりに費用対効果も高い防災対策なのではと考え,研究を行っています.

東日本大震災における首都圏の帰宅困難者問題に関する社会調査

東日本大震災時の帰宅困難現象について,東日本大震災直後に社会調査を行いました.以下は2011年5月8日にupした概要(速報)になります.

東日本大震災における首都圏の帰宅状況を再現すべく,上記のアンケート調査で尋ねたODと東京都の外出率(被害想定), PT調査などを用いて地震後24時間の都県別帰宅者数などをシミュレートしました.ただし,速報値かつ簡便な計算で行っている事をご承知ください. また,この帰宅者数などの数値は地震発生時外出していた人の状況のみを示すもので,地震発生時自宅にいた人はたとえその後外出されたとしても計算に入っておりません.   
(注1)具体的な数値は東京都のみを示しています   
(注2)今後の作業状況次第で最新版に差し替える予定です
地震発生から翌日15時までの各都県における帰宅状況(推定値,速報)


当日の状況(3月11日22時59分東大本郷キャンパスのビル上から廣井撮影)




2011年3月11日23:45時点の鉄道再開状況(青が再開,赤が運休.日経新聞(2011/3/11 23:56配信)の情報をもとに(ここに載っていなかった路線は表示していません)廣井が作成,なお小田急は2011年3月12日0時に運転再開したとの事です.)
(注)国土交通省によれば,2011年3月11日21時くらいから鉄道が再開され,12日0時過ぎに40%,6時過ぎから急増し,12時には90%の再開率に達したそうです(以上全て東京駅30km圏の首都圏鉄道対象).


より詳しい調査のまとめは2011年5月27日に下記pdfのようにまとめています.これにより,東京では約350万人が当日家に帰れなかったなど,その実態が明らかになりました.ここで得られた知見を生かし,その後の内閣府・東京都による調査についても,調査票の検討等に協力しています.
調査まとめ(pdf)
調査をまとめた査読論文(pdf)
(↑引用の際は「廣井悠,関谷直也,中島良太,藁谷俊太郎,花原英徳:東日本大震災における首都圏の帰宅困難者に関する社会調査,地域安全学会論文集 ,NO.15,pp.343-353,2011.」でお願いします)


事業所による帰宅困難者の受け入れ/滞留に関する研究

帰宅困難者を受け入れ/滞留させる施設を対象とした図上訓練キット「帰宅困難者支援施設運営ゲーム(KUG)」を開発しています.こちらは,事業所内で帰宅困難者の受け入れ/滞留を検討されている,もしくはこれから検討されようとしている方々のための図上訓練キットです.これまで行われてきた帰宅困難者の受け入れや滞留に関する実働訓練は,大量の帰宅困難者役の人を準備するなど,訓練をする上で事業所にとってそれなりに大きな負担になっていました.このような状況を踏まえて廣井准教授とSOMPOリスクマネジメント株式会社は,廣井が座長をつとめている東京都中央区の帰宅困難者支援施設運営協議会における検討や改善を経て,5人程度のワークショップ形式で帰宅困難者を受け入れたり滞留したりする場合の課題やイメージを事前に把握してもらい,また滞留・受け入れのマニュアルを作成/更新するヒントを得られるような図上訓練キット(KUG)を共同開発いたしました. KUGは行き場のない帰宅困難者を受け入れる事業所(一時滞在施設の開設)を対象としたKUG@と,自社の社員を滞留させる事業所を対象としたKUGAの2種類があります.

一時滞在施設をイメージしたKUG@ は静岡県が開発した避難所運営ゲーム(HUG)を参考としております.このたび静岡県のご厚意で、KUG@についての電子データでの配布をご許可いただけました.ありがとうございました.ご利用をご希望される方は,ココ(KUG1 ver1.0)からダウンロードしてください.また,ご利用される際はカードや地図などについて,地域特性や各社の特性にあわせて改変して頂くことを想定しております.このため改変が容易にできるよう,ワードファイルやパワーポイントファイルでの配布をさせていただいております.なおKUG@の詳しい内容などについては、こちらの論文をご覧ください.
KUGの論文(地域安全学会)(pdf)

自社社員に滞留してもらう事業所をイメージしたKUGA はオリジナルですので,ご利用を希望される方は,ココ(KUG2 ver2.0)からダウンロードしてください.

○2019年8月22日に京都市消防局の主催で、KUGAの京都バージョンを作成、200社に及ぶ大規模なワークショップを開催いたしました.このときに使用した京都バージョンにつきましても京都市消防局のご厚意で配布させていただきますので,ご利用をご希望される方は,ココ(KUG2 京都市版)からダウンロードしてください.

※なお現在、KUG@およびAに関する多くのお問い合わせを頂いており、廣井のみでは対応が困難となっております.ですので,KUGの利用などに関する質問やお問い合わせは,SOMPOリスクマネジメント株式会社様にメール(smiyata52アットマークsompo-rc.co.jp)でお問い合わせいただければ幸いです。よろしくおねがいいたします。
また,廣井が中野明安先生と執筆している「帰宅困難者に関する書籍」もあわせてご参考ください.

新型コロナウイルス対応を踏まえた事業所による帰宅困難者の受け入れ/滞留に関する研究

新型コロナウイルス対応を踏まえた帰宅困難者の受け入れ/滞留に関する研究を進めています.ここでは,「新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた帰宅困難者対策の配慮や様式集マニュアル」並びに「新型コロナウイルス対応を踏まえたKUG@およびA」を公開しています.特に後者のKUGについては,これまでのバージョンとの相違点は,1.オンラインで実施可能(従来よりもコンパクトに、短時間で),2.新型コロナへの対応を検証できる(上述のマニュアルとも連携可能)という2点となります.

○一時滞在施設の運営および企業な滞留時の注意点について,「新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた一時滞在施設の運営および一斉帰宅抑制時の配慮について」というマニュアルおよびその「様式集」を公開しました.ココ(20201119暫定版)からダウンロードしてください.

一時滞在施設をイメージしたKUG@のコロナ対応バージョンのご利用をご希望される方は,ココ(KUG1 ver1.0)からダウンロードしてください.

一時滞在施設をイメージしたKUGAのコロナ対応バージョンのご利用をご希望される方は,ココ(KUG1 ver1.0)からダウンロードしてください.



帰宅困難体験VRの作成

大都市における大規模災害時,一斉帰宅抑制の必要性をイメージしていただく目的で,帰宅困難体験VRを作成いたしました.詳細は廣井までメール(hiroiアットマークcity.t.u-tokyo.ac.jp)いただければと思います.



東京都中央区での事例研究

東京都中央区を対象として,事業所を核とした地域防災活動を10年以上続けています.詳細はこちらをご覧ください.

 

 

HPの内容や研究内容・取材等については以下にお願いします(できるだけメールでお願いします)。
●所在地:〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1東京大学工学部14号館909号室
●電話:03-5841-6253 ●FAX:未設置
●メール:hiroi@city.t.u-tokyo.ac.jp(@を半角に変えて送信ください).
東京大学大学院准教授 廣井悠  Copyright c 2016 U Hiroi. All Rights Reserved