大量の通勤者が朝夕移動を繰り返すなど,ヒト・モノ・カネ・情報の全てが集まる大都市.この集積は日本の経済・産業をリードする大きなメリットであるものの,ひとたび災害が発生すれば集まることによる様々なリスクが同時に顕在化し,その被害は各所へ波及します.特に東日本大震災時に首都圏で発生した帰宅困難者問題は,震度5強という揺れのもとでは「帰れないこと」が問題となりましたが,震度6強・震度7などの強い揺れが発生した場合,また違う問題が顕在化するものと考えられます.これを廣井は「大都市避難問題」と呼んでいます.「大都市避難問題」の論点は,おおきくわけて3種類あると考えています.ひとつは先にも述べた,大都市における人口や建物の過集中です.このような場所で大規模災害が発生した場合,
大都市複合災害避難シミュレーション技術の開発
これに対して東京大学廣井らは,先に挙げた3つの論点の前者2点を特に可視化・評価する目的で,大都市複合災害避難シミュレーション技術を開発しています.これは大都市域全体を対象とした広域の移動シミュレーションと地域レベルを対象とした狭域の避難シミュレーションを入れ子的に組み合わせたもので,特に前者は帰宅困難者対策の政策評価も可能とするものです.例えば,下記の図1は首都圏で平日昼間に大規模災害が発生し,もし仮に帰宅困難者の一斉帰宅がなされてしまった場合の,発災から1時間後に予想される歩道の歩行者密度を示したものです.紫色が1uあたり6人程度の大過密状態が発生するところを示しており,東日本大震災時を再現したケース(図2)とは比べ物にならないほどの危険な箇所があちこちで発生することを示しています.またここで,仮に(東京23区の)従業員の半数が帰宅を抑制したものとして計算をしたものが図3になります.一斉帰宅の抑制が,過密空間を減らすために重要であるということがこれらから示唆されると考えています.
市街地火災からの避難に関する研究
東京大学廣井らは,避難行動の中でも特に,市街地火災からの避難行動に焦点を絞って研究を進めています.例えば,上記の大都市避難シミュレーションに市街地火災からの避難シミュレーションを入れ子構造的に重ね合わせ,道路閉塞の有無や,避難開始時間を変えることで,帰宅困難者の移動が市街地火災からの避難行動にどのような影響を与えるかについて計算ができます.下図は,大都市避難シミュレーション(約600万人)のケース2を前提(帰宅困難者が一斉帰宅するものと仮に想定)とした上で,墨田区全域(約22万人)から指定された避難場所までの所要時間を計算したものです.Case 0は混雑の影響がなく,かつ道路が閉塞しない場合で,この状況下では98.4%が30分以内に避難を完了することができます.他方でCase Bは,道路閉塞を考慮したうえで(閉塞確率を細街路に限り1リンクあたり5%と仮に設定),地震発生直後に墨田区の住民全員が避難を開始するケースで,この状況下では1時間以内に,76.6%しか指定された広域避難場所まで到達できないことが分りました.さらにCase Cは同様に道路閉塞したうえで,地震発生から2時間後に墨田区住民全員が避難を一斉に開始するものです.地震が発生してから2時間後のため,墨田区内には多数の帰宅困難者が郊外に移動しています.つまりこのケースは,帰宅困難者の移動と市街地火災からの避難者が錯綜して大混雑を起こした場合を検証するものと考えることができます.結果として,このケースにおいては30分以内に避難を完了できる人は43.8%,1時間以内でも60.3%しか指定された避難場所に到達できないことがわかりました.2時間以内に指定された広域避難場所にたどり着けない人は全体の22.1%(48,471人)です.つまりこれは帰宅困難者の一斉帰宅かつ地震から2時間後の避難行動という条件下では,帰宅困難者による市街地火災避難の阻害がシミュレーション上で再現されたことになります.都市における安否確認・避難誘導アプリの開発
他方で,東京大学廣井らは,このような都市災害の特殊性に注目したうえで,災害時の個人の情報収集や避難行動,滞留行動の助けとなる支援システムを開発しました(スマート防災プロジェクト:株式会社AXSEED,株式会社ウェルシステム,MCPC認定SMC防災ネットワーク研究会との共同プロジェクト).そもそも,このような大都市内避難問題については,事前の備えと共に直後の災害情報の伝達が効果的であり,災害用伝言ダイヤルや災害用伝言版,エリアメール,エリアワンセグ,デジタルサイネージ,SNS,ワンセグ放送など様々な手段での解決が望まれます.実際,これらの手段を用いて災害情報提供に関する取り組みを行った事例も多いのですが,廣井らは外出中も使える携帯デバイスの特性を生かしつつ,パケット通信による情報伝達が可能かつ位置情報を把握できるスマートフォンの特徴に注目しました.この代表的な成果物が2012年8月にリリースしたiphone/android無料アプリ「まもるゾウ・防災」です.本システムの主な機能は,
なお2017年8月現在,この防災機能を一部搭載した「まもるゾウ2」が株式会社AXSEED社より提供されています.こちらはこどもをスマホ依存や有害サイトから守るためのチャイルドガード機能を主目的としたアプリです.こちらもぜひご覧ください